カナダに本社を置く豚肉生産者・HyLife Ltd. (以下、ハイライフ)と伊藤忠商事は2013年1月に資本提携を行い、パートナーとしてともに企業活動を行ってきました。商社では世界中のさまざまな商材を扱い、国内外問わず多くの企業と取引を行っていますが、その中でもハイライフは珍しい存在だといいます。その理由は何なのでしょうか?その疑問を解決し、第三者から見たハイライフの魅力を知るべく、伊藤忠商事 食料カンパニーの山下剛史さんにお話を伺いました。
――最初に、商社の食料部門の役割について教えてください。
商社では実にさまざまな分野の商材を取り扱っていますが、当社では中でも人々の生活に結びつく分野(食品や衣服など)に重きを置いています。その一つである食料部門の役割は、日本国内における食の資源確保と安定供給です。
2020年度の日本の食品自給率(カロリーベース)は、37.17%で過去最低となっており、海外からの輸入に頼らざるを得ない状況です。だからこそ、当社をはじめとする商社が必要な量の食料を輸入し、適切な価格で安定的に供給する体制を作っており、それが商社にとって大きな使命でもあります。
その上で、ただ海外から食料を輸入するのではなく、日本の消費者のニーズにマッチした商品を提供していく必要があると考えています。
――伊藤忠商事では、畜産分野の中で「豚肉」に注力されていると伺いました。
当社ではもちろん牛肉や鶏肉も取り扱っていますが、豚肉は計画生産がしやすいという点で商社として扱うべき商品と考えているのが注力している大きな理由です。計画生産というと言葉の響きが悪いかもしれませんが、言い換えると「高品質な豚肉」を「安定的」に供給する体制を構築できるということです。養豚から加工、流通までの工程を一元管理する「自社一元管理」を行うことで安定生産・安定供給が可能になり、さらにトレーサビリティの確保によって、安心・安全・高品質な豚肉の提供にもつながります。
当社では、国産豚肉の供給元としてプリマハム株式会社(以下、プリマハム)、輸入豚肉の供給元としてハイライフの2社と資本提携を結んでいます。日本の豚肉の自給率は約50%であり、国産豚肉の供給量増加に取り組むとともに、商社の使命である資源確保と安定供給のため、ハイライフから豚肉を輸入しています。国産と外国産、どちらが良い悪いということではなく、日本の消費者へ安定的に供給するために、2社へ投資しているということですね。
――数ある企業の中で、資本提携先としてハイライフを選ばれた理由は何でしょうか。
畜産分野において、先ほど述べた当社の2つの方針(①日本国内における食の資源確保と安定供給 ②日本の消費者のニーズにマッチした商品を提供すること)に合致するのがハイライフだった、というのが大きな理由です。
安定供給のために有効な自社一元管理ですが、その体制を築くには規模感とノウハウが必須で、どの畜産会社でも実現できるわけではありません。
また、日本人のニーズに合致した商品提供のためには、日本のマーケットの声にきちんと耳を傾けてくれる企業であることが重要です。現地で生産したものをただ日本に持ってくるのではなく、日本のマーケットが求めるものを一緒に考えて作ってくれる企業であるということです。そういった意味では、ハイライフは他の企業と比べて、ずば抜けて日本を向いて生産をしてくれる企業だといえます。
ハイライフはカナダの企業でありながら、徹底的に日本の消費者の嗜好や市場動向を調査し、日本人好みの豚づくりを行っています。大半の企業は自国向けの生産・出荷をメインとするのに対し、ハイライフは日本人が購入する部位においては生産量の約80%以上を日本向けに出荷しています。これだけ日本の消費者を見てビジネスを行っている海外企業はほかにないと思います。
――伊藤忠商事では、日本の消費者をどのように捉えているのでしょうか。
豚肉に限ったことではありませんが、日本の消費者は、外国産よりも国産を好む傾向にあります。国産の方が生産者の顔が見えて、安心・安全だという心理が働くからだと思われます。そういった意味では、日本のお客さま向けの商品を開発し、自社一元管理を行っているハイライフポークは輸入豚肉でありながら、生産者の顔が見えるというニーズにマッチしていると考えています。
自社一元管理のメリット
- 養豚から加工、流通までを一元管理することにより、トレーサビリティの確保が可能になる。
→ハイライフでは、種豚の開発や飼料原料の調達、飼料の配合も自社で行っています。
- 万一何らかの問題が生じた場合でも、原因究明と問題解決を素早く行える。
→ハイライフでは、全工程を時系列で追える「トレースバック・フィードバックシステム」を採用しています。
- 消費者の声を直接生産者にフィードバックでき、品質改良など商品づくりに生かせる。
→ハイライフでは、直接日本の消費者の声をヒアリングし、そのニーズに合った商品づくりを行っています。
マーケットが細分化されていることも、日本市場の特徴です。例えば果物は、スーパーで買える安価なものから、百貨店で木箱に入れて販売される高級品まで、価格の幅が非常に大きいですよね。
豚肉も同様に、同じ国産の豚肉であっても、「国産豚肉」と表記されて販売される比較的安価なものから高級なブランド・銘柄豚まで、価格も種類もさまざまです。海外のスーパーの場合、ロースやバラなど部位の種類はあれど、豚肉自体は1種類しか取り扱いがないのが大半です。そういったことから、日本は食品の品質や味に対するこだわりが非常に強いといえます。それはすなわち、こだわりを持って生産した商品の味や価値をきちんと評価してくれるということ。ハイライフが日本市場に着目し、日本人好みの豚づくりを徹底しているのはそのためです。
※所属・内容は公開当時(2021年10月)のものです
<プロフィール>
山下 剛史さん
伊藤忠商事株式会社
食料カンパニー 生鮮加工品第二部
2006年に伊藤忠商事株式会社入社、畜産部に配属。オーストラリア実務研修で牛肉を担当した後、2011年よりプリマハム株式会社に出向し、量販店/外食向けの食肉の営業を行う。2013年伊藤忠商事に復帰し、豚肉担当としてハイライフ商品の販売拡大に携わる。2017年にはハイライフ社に出向し、カナダ・マニトバ州に家族で移住。2020年より伊藤忠商事食料カンパニー生鮮加工品第二部に復帰し、ハイライフ商品を担当する。